本稿は、私の友人である韓国税務士の李信愛氏が2009年3月24日に北陸税理士会が主催(北陸税理士協同組合連合会後援)した会員研修会の第1部「韓国における税務士資格について」(第2部パネルディスカッション「税理士制度と税理士法を考える」~来るべき税理士法改正に向けて~)の基調講演の元になったものです。李税務士から掲載の了解を得ましたので紹介します。

                  韓国における「税務士資格制度」について
         
                                                韓国・税務士 李 信 愛
1. はじめに
 韓国において「税務士制度」が創設されたのは、1961年、当時の軍事革命政府(5.16革命)による「国家再建最高会議」の提案に基づき、1961年9月9日法律第712号によって「税務士法」が制定・公表されたからである。
 この法律により1961年12月28日「第1回税務士試験」を実施して、4名の合格者が発表されたので、国税庁経歴者に対する自動資格付与者を含め131名の登録をもって、1962年2月10日、韓国税務士会が発足したわけであり、(1) 2008年3月現在、韓国税務士会に登録した開業会員の数は、7,653名である。
 ちなみに、公認会計士11,288名、開業弁護士8,744名のうち、税務代理を目的に税務士会に登録している弁護士は、69名である。(2)
 一方、韓国で税務士制度が創設された以来、税務士法の改正は13回にわたって行われたが、そのうち、資格制度に関する主な改正としては、
 ① 1978年12月8日、法律第2359号の改正による、税務士法創設の当時の自動資格付与制度の大幅な整備
 ② 1999年12月31日、法律6080号の改正による、国税経歴者に対する税務士資格自動付与の廃止などが挙げられる。
 
 さて、本稿の冒頭に税務士資格制度に関する歴史的な経緯などについて、その内容の正確性を期するため、韓国では税務士制度における「生き証人」とも言えるソウル地方税務士会前会長宋瑃達先生のご教示をいただいたことを記載しておきたい。

 以下では、まず、韓国における税務士法の改正、特に税務士資格制度に関する「税務士法改正」の沿革を述べながら、その変遷過程をめぐる歴史的な経緯などを検討していきたい。 そして、依然として解決されてない公認会計士や弁護士に対する税務士資格の自動付与問題に対する学会の研究結果を検討することによって、今後の韓国税務士制度の方向性を探ってみたい。 また、緊急懸案として、昨年、「韓国弁護士会協会」により「ロースクール導入による弁護士業務の先進化方案」として提示された「類似職域専門家統合」に対する議論を紹介しておきたい。

2. 韓国における税務士資格制度の歴史的な変遷過程
(1) 1961年 9月 9日 法律第712号により「税務士法」制定当時
 1)弁護士
 2)計理士(3)
 3)税務士試験に合格した者
 4)商法、財政学、会計学、経営経済学により、博士または修士の学位を受けた者
 5)教授資格認定令の定めによる資格を有する専任講師以上の教員として、商法、会計学、財政学、租税論または経営経済 学を一年以上教授した者
 6)商法、会計学、財政学に関する科目のうち、一科目以上を選択して、高等考試に合格した者
 7)高校卒業以上のものとして、国税(関税を除く)または地方税に関する行政事務に通算10年以上勤務した者

 ― この当時は、税務士がなかったため七つに至る資格取得の方法が規定されている。
 これを鑑みると、当時の立法者は、税務代理業務を法律行為代理より一種の会計代理としてしか認識していなかったことが伺える。 すなわち、試験による資格取得者を弁護士や計理士による自動資格付与より、税務士法の下位に配列したことによって、税務士制度の初期における税務士制度に対する政府の認識が伺えるのである。(4)

(2)  1972年12月8日 法律第2358号による自動資格制度の大幅な改正
  成年以上の大韓民国の国民として、下記のものに税務士資格を付与した。
 1) 税務士試験に合格した者
 2) 国税(関税を除く)に関する行政事務に従事した経歴10年以上の者であって、そのうち、一般職3級(現行5級事務官)以 上の公務員として5年以上在職した者
 3) 公認会計士
 4) 弁護士
 ― 国税と地方税に関して10年以上の経歴を持っている者や修士、博士、大学校の教授、高等考試合格者に対する自動資格付与を廃止したのは、専門性を強化させることによって、税務士の社会的な責任を果たせるための改正であった。 また、成年以上との改正があったのは、第8回の税務士試験に未成年者一人が合格したことによって、その資格認定をめぐって議論されたからである。(5)

(3) 「行政刷新委員会」へ税務士制度改善を建議
 1993年11月4日韓国税務士会は、大統領諮問機構である「行政刷新委員会」に公認会計士などに対する自動資格を廃止する建議書を提出するなど積極的に働いた結果、1994年1月14日、「行政刷新委員会」の全体会議において"自動的に特定な人へ資格を付与する資格取得制度と試験制度を改善し、すでに自動として取得した者も一定の期間の研修教育と検証を経てから、税務士会に入会する"よう議決した。
 その後、1994年7月2日、国務総理室から財務省に右の勧告が通告されたが、公認会計士会の強力な反対により、財務省から政府案としての税務士法改正案の提出までは至らなかった。

(4) 税務士資格要件に国籍条件削除
 1995年12月6日 法律第4983号により、専門資格者に対する対外開放措置に基づき、税務士資格要件のうち国籍条件が削除され、外国人も韓国の税務士試験に合格すれば国内において制限なく税務士業務が出来ることとなった。

(5) 規制改革委員会と税務士制度改善の動き
韓国政府が、IMFという朝鮮戦争後の最大の危機にあたり、社会各分野に対する構造改革を進む中、規制改革委員会では、資格取得制度に対する改善方案を議決し、今後すべての資格は試験により取得すべしとの資格取得制度の整備を推進する計画案を出した。この委員会が提示した税務士制度関連改善対象のうち、税務士の職務と資格と関連した項目と理屈は、次の通りである。(6)
 ① 税務士に租税関連訴訟代理権を付与する
 ― 租税専門家である税務士に租税関連訴訟代理権を禁止するのは、不合理であるとの指摘がなされた。
 ② 国税公務員に対する自動資格付与を廃止することを内容とする
 ― 国税公務員の業務上の経験分野などは無視し、試験科目を全部または一部免除するのは、合理性と衡平生を欠くものであるとの指摘がなされた。

 そもそも、韓国において税務士制度の改善、特に自動資格付与制度の廃止に関しては、税務士制度が制定した時からの念願のことである。
そのため、税務士会はもちろんのこと、会員も各種の専門雑誌などに自動資格付与制度の不当性とその廃止すべき根拠などを論文として発表したり、毎年の定期国会にその廃止案を出してきたが、その都度、公認会計士会と弁護士会の強力な反対にぶつかり挫折して来たわけである。
 ところが、1993年民間政府が出来た以来、社会各部分における見直しが行われている中、規制改革委員会が上記の改善方案を出したので、韓国税務士会としても会員個人としても、絶対見逃せないチャンスであった。
そして、韓国税務士会はもちろんのこと、個人会員も自動資格廃止のための努力をし始めたのである。 ここで、その過程を簡略に紹介しておく。
 a 会員の活動
 ある会員の税務士(7)が、上記の状況の中で自動資格付与の不当性を訴えるため、いろんな活動をし始めた。 
当時の韓国税務士考試会長だった同会員は、金大中大統領の政権の下で、当時、強い影響力を発揮していた「経済正義実践連合会」などの市民団体を通じて、国税経歴者に対する自動資格付与の不当性を訴える共に、憲法裁判所にも国税経歴者に対する自動資格の付与が憲法上の平等権に反することを理由に憲法裁判を提起した。 
 ところが、右の主張を受理した「経済正義実践連盟」は、本事案の不当性を認め、直ち規制改革委員会へ自動資格付与制度に対する見直しを勧告したのである。
 ことがこうなると、同会員としては、もし、憲法裁判所において合憲の判決が下されば、元も子もないことになりかねないという判断で、自ら憲法裁判提起を取り下げてから規制改革委員会が主催する委員会に出て意見陳述をしてもらうことと計画を変更したのである。 そして、規制改革委員会において、国税経歴者に対する自動資格の廃止すべき旨を陳述した。 
 もちろん、これによって、規制改革委員会が直ちに、制度の見直しを行ったわけではないが、「資格は試験により取得すべしとの資格取得制度の整備を推進する計画案を出す」ことに影響を及ぼしたのは確かであろうし、その面において、ここで言及すべきであると思われる。

 b 韓国税務士会が行った自動資格廃止に関する活動
 ィ 韓国租税研究院を通じて租税学者、法律学者に対し「税務士制度の問題
点及び改善研究に関する論文」を依頼することによって、学界の世論を主導
し続けてきた。
 ロ 公聴会に参加する他、財務省に対して自動資格廃止に関する建議書を提出するなど積極的に活動した。
 しかし、税務士会の積極的な活動も虚しく、規制改革委員会は1998年8月20日、他団体の反対を意識したのか弁護士及び公認会計士会の自動資格廃止は、 弁護士及び公認会計士会を管轄する主務部省の所管事項であるという理由で、国税公務員に対する自動資格廃止のみ改善すべしという業務指針を財務省に下したのである。

(6) 1999年12月31日 法律第6080号により、国税経歴者に対する自動資格付与制度が廃止
 ①1999年6月18日、韓国税務士会は、国税経歴者・公認会計士・弁護士に対する自動資格を廃止しする旨の改正建議案を財務省に提出し、税務士制度創設以来始めて、政府案として国税経歴者・公認会計士・弁護士に対する自動資格を廃止が立案された。ところが、大臣の決裁過程で公認会計士は除いて弁護士のみに廃止する旨が立法予告された。(財務省広告1999-109号、1999.8.31) また、1999年11月13日の法務省の次官会議にて弁護士の立場を優先する法務省の反対で弁護士に対する自動資格廃止案も除かれ、残念ながら、国税公務員経歴者に対する自動資格付与条項のみが上程された。
 ② 幸い、国税公務員経歴者に対する自動資格付与条項、税務士法第3条の
第2号が削除され、附則第3項にて"2000.12.31日現在、従来の税務士法第3条の第2号の規定に該当する者に対しては、改正規定にかかわらず従来の規定を適用する"と改正された。
 <従来の税務士法第3条の第2号>
 国税に関する行政事務に10年以上従事した者であって、そのうち、一般職5級(事務官)以上として5年以上在職した経歴がある者は、自動資格付与。
 ③ しかし、附則第3項の経過規定に対し、今度は、国税公務員の側から憲法裁判を提起し、同附則規定が信頼の利益に反すると訴えた結果、2001年9月27日(2000憲マ-152号)、この附則規定は、信頼の利益を不当に侵害したものと憲法不合致決定が下された。よって、2002年12月30日、法律第6837号にて当該附則が"2002年12月31日以前に、国税に関する行政事務に従事した者は、第3条第2号の改正規定にもかかわらず従来の規定を適用する"と改正されたのである。すなわち、2002年12月31日以前、国税庁に勤めた者が今後、昇進により5級となった場合、従来の要件さえ具えば自動資格が付与されるとのことである。
 ④いずれにせよ、当初の期待より大きく後退した改正であったが、国税経歴者に対する自動資格付与を制度的に廃止したことは、韓国税務士資格制度において、大きな進歩であると言えよう。

(7) 韓国税務士会及び会員による対国民的署名活動開始
 1999年の失敗から、弁護士や公認会計士出身の国会議員が陣を構えている国会において、税務士制度の改正、税務士法の改正を成し遂げるためには、税務士出身の国会議員が要るし、国民の世論を背負っていけなければならないことを思い知らされた。その一環として、国民200万人の署名をもらうべしということで、全国税務士会の役員及び会員が2006年6月30日から、公認会計士及び弁護士に対する税務士資格自動付与廃止及び租税訴訟代理権獲得のため、地下鉄の入り口、市場など街頭で対国民街頭署名運動を開始した。その結果、自動資格廃止については1,052,830名、租税訴訟代理権欠確保については1,048,214名の署名を得て、関係機関に建議した。

(8) 2003年12月31日法律第7032号により、税務士の名称独占権認め
 当初の韓国税務士会は、公認会計士の自動資格廃止を旨とする建議案を政府に出してから、2003年10月2日、財政省主管、韓国租税研究院が主催とする"税務士法の改正に関する公聴会"を開いた。もちろん、200万名国民の署名書も提示され、学者、言論家、市民団体の代表者などの圧倒的な支持を得たので、国会の財政経済委員会所属の議員3名(8)の名義で2003年10月21日共同議員立法された。 
 その後の11月10日、第13次財政経済委員会全体会議において、原案通り通過したが、同年12月19日、「法制司法委員会(9)」において、弁護士会と公認会計士会の強力な反対にぶつかり、折衷方法として、「公認会計士などには、税務士資格は与えて、その代わり名称の使用は禁止される」ことと改正された。
 但し、附則規定により2003年以前、資格を取得した者については、既得権を認め税務士としての登録及び名称の使用を認めている。
この税務士名称の独占権については、2007年ある弁護士が税務士名称の使用禁止は違憲という憲法裁判を起こしたが、憲法裁判所は2008年5月、弁護士の税務士名称使用禁止は合憲という判決が下されることによって、税務士資格の自動付与の不当性が間接的に立証され、税務士資格の独立性が認められたとの評価である。 当時、憲法裁判所は、"税務士の資格名称の公信力を高め、税務士資格試験に合格した者とその他の資格所持者が区別できることによって、消費者の合理的な税務サービスの選択の機会を保障しようとする立法の目的は正当である"との理由で弁護士の違憲訴訟を棄却した。(10)

(9) 弁護士に対する自動資格廃止の議員立法
 2007年10月10日、国会の法制司法委員会の李相珉議員(当時与党)が、弁護士自動資格廃止を単独議員立法し、同年12月27日、財政経済委員会は通ったものの、やはり、法制司法委員会において、弁護士出身の委員らの反対によって審議せず保留されたが、第17代国会会期が満了することによって、議案は自動廃棄されたが、「俺は、この法案が改正されるまで議員立法を続ける」と発言されたのは、税務士会では有名な話である。
 その後の、第18代の国会議員選挙で野党として選出され、約束通り、2008年8月7日、またも、今度は10人の議員と共に弁護士に対する自動資格廃止を議員立法したが、今度は、税務士会で弁護士会の機嫌を取るかのように、自ら審議保留を要請することによって、見送られた。
 これには、それなりのわけがあり、後で述べる「弁護士会による類似職域統合問題」をめぐって、弁護士会との仲直りを狙った、税務士会のやむをえない選択だったのであろう。 李議員は、その後、税務士からの個人寄付が殺到したわけであるが、自分も弁護士でありながら、自分の税務申告も出来ないくせに税務士が勤めるかと委員の弁護士らに一喝し、弁護士の自動資格はおかしいと国会で主張したすばらしい方である。

3. 公認会計士との「税務代理一元化の問題」
 日本の場合は、税務代理業務を遂行するには税理士会に登録した者に限る、また、税務代理行為も税理士法によって一元的に規律されることを鑑みると、税務代理一元化が実現されているといえる。
 これに比べ、韓国の税務士法第20条では、税務代理業務の遂行と税務士の名称使用の要件として、税務士の資格と税務士会に登録することを求めていて、それに反した場合には処罰規定を持っているので、現行の法律では税務代理が一元化されているかのように見える。しかし、税務士法第20条の2項において、他の資格税務士については、教育の義務、税務士会の加入義務、懲戒責任が免除される(11)ことになっていて、結果的には、不完全な税務代理一元化の体系を取っていることが判る。
 すなわち、公認会計士は、税務代理の権利は持つが、それに従う義務と責任は負わないとのこととなり、その不当性を指摘し、税務代理業務を遂行する者を税務士法の規律に一本化すべきという、税務士法の改正を求め続けてきたことが韓国における税務代理一元化の問題である。(12)

(1) 税務代理一元化論争の原因
 1950年3月制定された計理士法における計理士の職務は、会計に関する検査、調査、計算、整理、立案または法人設立に関する会計と納税調整に対する異議申し立てに限定された。 
 その当時の韓国では朝鮮戦争が終え経済活動が活発化されるにつれ、税務代理に対する社会的な必要性が増え始めたものの税務士制度が存在しなかったため、税務業務との関連性がある計理士に税務代理をさせるため、「税務代理の業務」を定めたのである。 
 ところが、1966年「計理士法」が「公認会計士法」と変更されることによって、「計理士」が「公認会計士」として改称され、その後の1989年の改正により「公認会計士」のみではなく「公認会計士資格者」にも税務士資格が与えられたのである。 
 このことは、1961年税務士法が定められ独立した税務士制度が導入されたにもかかわらず、計理士の職務から「税務代理業務」が無批判的に受容されることによって、公認会計士まで税務士資格を付与した結果となるし、このような重ねた資格付与が一種の既成状態ないし既得権となり現在まで施行されつつあるのである。(13)
 やがて、この規定は、いわゆる税務代理一元化論争の元となる。

(2) 税務代理一元化に関する論争の意義
 税務代理に関する規律体系を一本化するか二本化するかをめぐって、前者の立場を取っている税務士会側と、後者の立場を取っている公認会計士側の論争を言う。
 両者の争点を見てみると、
 ① 税務代理業務者の一元化
 ② すべての税務士を一つの規律体系としようとする税務士規律の一元化
 ③ 税務士資格に対する資格付与の一元化
 ④ 税務士制度と公認会計士とを統合しようとする一元化として分けられる。
 
 そのうち、①~③の争点は、1961年の税務士法制定以来、税務士会が持続的に主張し、なおかつ推進してきた内容であり、争点④は、公認会計士側の主張である。
 このように、両会は上記の争点をめぐって、各々の立場によって多数の建議書を提出してきたわけであるが、この論争に新しい転機をもたらしたのが、1994年行政刷新委員会による「専門資格者制度のに関する改善方案」であった。
 すなわち、「自動的に特定な人へ資格を付与する資格取得制度と試験制度を改善」すべしとの方案がそれである。
 この改善案によって、税務士会は税務代理一元化の推進の名分を得たのにくらべ、公認会計士会としては、この改善案があまり面白くないはずである。
 いずれにせよ、この税務代理一元化をめぐる論争は、現在も続いており、学界などにより解決策が出されてはいるものの、研究役務依頼者により偏っている評価ないし改善策であるため、確かな解決には至ってないのが現実である。

4. 弁護士会による「類似職域統合問題」
 昨年の9月政府が「資格者制度の先進化方案」を発表した矢先に、去る12月15日には、韓国の「大韓弁護士協会」が、"ロースクール導入に従う弁護士業務の先進化方案"というテーマでシンポジウムを開き、税務士、関税士、労務士、弁理士の職域を弁護士として統合する方案を、政府の資格者制度の先進化方案に対する意見として提示したのである。
 同協会は、その根拠ないし理屈として、
 ① 法律サービス市場が開放されたら、現在のような職域の区分では、生存が難しくなる
 ② 類似法律関連職域は、弁護士と並存的な業務を遂行してはいるが、終局的に紛争の解決をするのはもっぱら弁護士である
 ③  このような二重的な法律構造によって、資質が満たない資格者(弁護士は資質があるとのことらしい)によって、国民は二重の負担を強いられているから、税務士など類似職域の新規排出を中断し、弁護士として一元化すべきであるとのことを主張したわけである。
 このような、政府の発表に続く、弁護士会の攻撃に税務士会は敏感な反応を示し、
 ① この事案は、重要であるため、進行内容を公表するのは望ましくない。
 ② よって、税務士会は、弁護士会と何回かの相談を経て、一応、関係を正常化する方法を選んだ。 それが故に、前で述べた2008年8月の弁護士自動資格廃止という議員立法に目をつぶしたのであろう。

 察するに、今回の議論である「類似職域の業務統合」とは、ロースクール施行以来、弁護士数の急な増加と法律市場開放に対応するための弁護士会の判断によるものであるようである。(14)
 この意見提示に対し、税務士会は、直ちに「税務士制度先進化方案対策」TFチームを構成し、政府の「資格者制度の先進化方案」と弁護士会のシンポジウムで提示された「弁護士の類似職域の一元化方案」に対応させた。
 このチームでは、政府の資格者整備方案と弁護士会の今後の計画などを綿密に分析し対応することにした。
特に、随時にTFチーム会議を開き、情報の集め並びに分析をしてから、適切な時点においては、関連団体と連携をした公聴会及びシンポジウムを開催する方針であるとのことであり、他の団体の動きも税務士会と同様のようである。

 私見としては、税務士会として危機であるのは確かであるが、それだとして直ちに対応することも望ましくないと思われる。 もし、この議論が実現される動きがあるのであれば、弁護士が国会議員の多数を示している韓国の状況を鑑み、弁理士会などの団体と手を組んで、協議、協力をしながらこの問題に対処すべきではないかと思われる。ここで、一番大事なのは、国民から信頼される税務士会であることをいかに国民にアピールするかのことであり、そのためには、常に世論の向背に目を向けることが肝心なことではなかろうか。(終)

(注記)
 1 「税務士会40年史、1962~2002」、韓国税務士会刊、2002年4月、97頁
 2 李錦珠、「税務代理サービス補修決定要因に関する研究」、璟園大学校博士論文、17,18頁。
 3 公認会計士の従来の名称。税務士制度が創設する前に、会計に関する検査、調査、計算、整理、立案または法人設立に 関する会計と納税調整に対する異議申し立てなどを業務とした。 
  そして、1966年「計理士法」が「公認会計士法」と変更されることによって、「計理士」が「公認会計士」として改称された。  計理士法の不完全な整備による公認会計士会と税務士会の論争である、「税務代理一元化」については、第3のところで詳 しく述べる。
申東雲、「税務士制度の発展方案に関する研究」、1995年ソウル大学校法学研究部刊、43頁参考
 4 申東雲、前掲書45頁
 5 宋瑃達、「韓国税務士考試会新聞」2009年1月16日発刊、10頁
 6 規制改革委員会、事業者団体の規制改革指針、1998.8.20
 7 鄭求政、当時、韓国税務士考試会長を務めたのち、2003年第23代韓国税務士会長となる。以上の内容は、本人と電話 にて確認したことである。
 8 金政夫、具鐘泰、羅午淵の三名、そのうち、具鐘泰及び羅午淵議員は、元税務士会長。
 9 法制司法委員会のメンバーは、殆ど、弁護士、そして一部は公認会計士出身である。
10 韓国税務士新聞第490号、2008年8月16日、1面記事から。
11 但し、税務士法施行令第33条の規定により、税務代理業務が全体業務の90%を超える場合は、その限りではない。
12 李貞子、「税務士制度の改善方法」1996年、成均館大学経営大学院の修士学位請求論文、36頁
13 申東雲、前掲書42頁
14 林ジョンビン(世界日報新聞記者)、税務士新聞、第500号、13面



 <添付書類>

 韓国における税務士法の主要内容(2009年1月30日全文改正内容)

第一章  総則
(1) 税務士法の目的(第1条)
 この法律は、税務士制度を確立し税務行政の円滑な遂行と納税義務の適正な履行を図ることを目的とする。
 
(2) 税務士の使命(第1条の2)
 税務士は公共性を持つ税務専門家として納税者の権益を保護し、納税義務の誠実な履行に寄与することを使命とする。

(3) 職務(第2条)
  税務士は、納税者等の委任を受け次の各号の行為又は業務(以下、税務代理と称す。)を遂行することを職務とする。
 ① 租税に関する申告.申請.請求(課税前適否審査請求 異議申立.審査請求及び審判請求を含む)等の代理
 ② 税務調整計算書、その他の税務関連書類の作成
 ③ 租税に関する申告のための記帳の代行
 ④ 租税に関する相談又は諮問
 ⑤ 税務官署の調査又は処分等と関連する納税者の意見陳述の代理
 ⑥ 「不動産価額公示及び鑑定評価に関する法律」による個別公示地価及び単独住宅価額・共同住宅価額の公示に対する異議申し立ての代理業務
 ⑦ 当該税務士が作成した租税に関する申告書類の確認。 但し、申告書を納税者本人が作成したか、申告書類を作成した他の税務士が休業又は廃業のためこれを確認することが出来ない場合には、当該納税者の税務調整.記帳代行又は諮問の業務を行なっている税務士が確認することが出来る。
 ⑧ その他、第1号から第7号までの業務に附帯する業務

(4) 資格(第3条)
 ① 第5条の税務士資格試験に合格した者
 ② 公認会計士の資格がある者
 ③ 弁護士の資格がある者

(5) 欠格事項(第4条)
 次の各号の一に該当する者は、第6条の規定による登録をすることが出来ない。
 ① 未成年者
 ② 禁治産者と限定治産者(日本における成年被後見人及び被保佐人)
 ③ 破産宣告を受けてからまだ復権されなかった者
 ④ 弾核又は懲戒処分によりその職から罷免又は解任された者であって、3年が経ってない者
 ⑤ この法律.公認会計士法又は弁護士法による懲戒により除名又は登録取消を受けた者であって、3年が経ってない者と、停職された者であってその停職期間中にある者
 ⑥ 第17条の第3項により登録拒否期間中にある者
 ⑦ 禁錮以上の実刑を受けその執行が終了したか(執行が終わったものとみなす場合を含む。)、執行が免除された日から3年が経ってない者
 ⑧ 禁錮以上の刑の執行猶予を受けてその期間が終了した後1年を経過しない者
 ⑨ 禁錮以上の刑の宣告猶予を受けてその期間中にある者
 ⑩ この法律と租税犯処罰法及による罰金の刑を受けた者であって、その刑の執行が終了したか執行を受けないように確定された後から3年が経てない者、又は「租税犯処罰手続法」の規定により通告処分を受けた者であって、その通告の通り履行された後から3年が経てない者

(6) 資格試験
  韓国では、税務士資格試験の受験資格の規定は設けてない。

 (6-1)税務士資格試験科目(第5条及び施行令第14条の4)
 ① 税務士の資格試験は第1次試験及び第2次試験とする。
 ② 第4条の第2号乃至第10号までの何れの一に該当する者は、試験に応ずることが出来ない。
 ③ 第1項による税務士資格試験の科目と、その他の試験に必要な事項は大統領令が定める。

 「第1次試験の科目-多肢選択式」
 財政学、会計学概論、商法(会社編)、英語、税法学概論(国税徴収法.所得税法.法人税法.国税調整に関する法律)、
 ― 毎科目を100点満点とし、毎科目40点以上平均60点以上を得点した者が合格。
 ― 2005年からは、税務訴訟代理権に備えて、商法(会社編)、民法(総則)、行政訴訟法(民事訴訟準用規定を含む)のうち、一つを選択するようになる。

 「第2次試験の科目-論文筆記式」
 税法学1部: 国税基本法(日本における通則法にあたる)、所得税法、法人税法、相続.贈与税法
 税法学2部:付加価値税法(日本における消費税法にあたる)、特別消費税法、地方税法(取得税、登録税、総合土地税に限る)、租税特例制限法
 会計学1部:財務会計、原価管理会計
 会計学2部:税務会計
 ― 毎科目を100点満点とし、毎科目40点以上平均60点以上を得点した者が合格

 (5-2)試験科目の一部免除(第5条の2及び施行令第14条の4)
 ①  次に掲げる者に対しては第1次試験を免除する。
 ァ 国税(関税を除外。以下同じ)に関する行政事務に10年以上従事した者
 ィ 地方税に関する行政事務に20年以上従事した者
 ゥ 地方税に関する行政事務10年以上従事した者のうち5級以上の公務員
 ェ 大尉以上の経理将校であって、10年以上軍隊の経理業務に従事した者
 ② 次に掲げる者に対しては、第1次試験の全科目と第2次試験科目のうち税法学1部及び第2部を免除する。
 ァ 国税に関する行政事務に20年以上従事した者
 ィ 国税に関する行政事務に10年以上従事した者のうち、5級以上の公務員として5年以上の経歴がある者 
 ③ 弾核又は懲戒処分によりその職から罷免又は解任された者には、第1項と第2項の規定を適用しない。
 ④ 第1次試験に合格した者に対しては、次回の試験に限り第1次試験を免除する。

(7) 登録等(第6条)
 ① 登録
 第5条の税務士試験に合格することによって税務士の資格を有する者が、税務代理の業務を開始しようとする場合は、財政経済府(日本における財務省)に備える「税務士登録簿」に登録しなければならない。
 なお、更新期間においては3年以上である。(現在5年1回) 
 ② 名称の使用(第20条等)
 (ア)  第6条の規定により登録した者でない者は、税務代理業務をすることが出来ない。但し、弁護士法第3条の規定により 弁護士の職務として行なう場合と第20条の2第1項の規定により登録した場合にはその限りではない。(2003.12.31改正)
 (イ) 第6条の規定により登録した者以外のものは税務士またはその類似な名称を使うことが出来ない。(2002.12.30改正)
 (ウ) 第1項により税務代理が出来ない者は、税務代理業務を取り扱っている旨を表示するか広告してはならない。但し、他の法律が定める者の業務範囲に含まれる場合は、その限りではない。

(7) 税務士の権利と義務
 ① 署名捺印(9条): 税務士が納税者を代理して租税に関する申告書、申請書、請求書、その他の書類を提出する場合は、当該書類に署名捺印しなければならない。
 ② 調査の通知(10条): 税務公務員は、第9条の規定により提出された申告書等に関して調査をする必要があると認めるときは、当該税務士に対して調査の日時、場所を通知しなければならない。
 ③ 秘密厳守(11条)、誠実義務(12条)、脱税相談等の禁止(12条の2)、使用人等に関する監督義務(12条の4)、帳簿作成(14条)は、日本の規定と同じ。
 ④ 名義貸与等の禁止(12条の3): 税務士は、他人に自己の氏名又は商号を使用して税務代理をさせ、又はその資格証又は登録証を貸与してはいけない。
 ⑤ 税務士の研修教育(12条の5): 税務士の資格を有する者が税務士業務を開業しようとする時は、第6条の規定による登録をする前に、財務省令が定めるところにより6ヶ月(第5条の2により試験の一部が免除された者が資格試験に合格した場合は1ヶ月)以上の実務教育を受けなければならない。
 ⑥ 事務所の設置(13条): 税務士は税務士業務を行なうために、一個の事務所のみを設置することができる。 但し、税務法人はその限りでない。
 なお、税務士が公認会計士、弁護士、法務士(日本の士法書士)、弁理士、関税士、公認労務士、公認仲介士、経営指導士、技術指導士、行政士等の資格者の業務に従事しながら税務代理業務をする場合には、税務代理の業務のみのため、別の事務所を設置することは出来ない。

(8) 税務士の兼職禁止(16条) 
 ① 税務士は公務員を兼任することができない。 但し、国会議員又は地方議会議員若しくは常勤を必要としてない公務員になり、又は公共機関で委嘱された業務を行なう場合には、その限りでない。
 ② 税務士は学校.学院等、教育分野の出講(専任を除く)又は非営利法人の非常勤役員を除き、営利を目的とする業務に従事し、営利を目的とする法人の業務執行社員、役員又は使用人となることは出来ない。

(9) 損害賠償責任の保障(第16条の2)
 税務士(税務法人に所属されている税務士を除外)が、職務を行なうことにおいて故意又は過失により依頼人に損害を被られた場合、その損害に対する賠償責任を保障するため、税務士会が運営する共済事業に加入し、又は保険の加入又は供託機関に現金あるいは国債を供託する方法により、一人当り三千万ウォンに相当する損害賠償責任の保障措置を履行し、その旨を税務士会長に申告しなければならない。

第二章  税務法人
(1) 設立 (第16条の3)
 ① 税務士は、その業務を組織的かつ専門的に行なうため税務法人を設立することができる。
 ② 税務法人の定款には、目的、名称、主事務所及び分事務所の所在地、社員及び理事の氏名.住民登録番号.住所、社員の出資に関する事項、業務に執行に関する事項等を記載しなければならない。

(2) 税務法人の登録(第16条の4)
  税務法人の登録をしようとする者は、財政経済府長官(財務大臣)に登録しの申告をしなければならない

(3) 社員等(第16条の5)
 ①税務法人の社員は税務士でなければならないし、その数は3人以上であることを要する。
 ②税務法人には3人以上の理事(取締役)を選任しなければならない。 
 但し、次の各号の1に当たる者は理事になることが出来ない。
 ァ 社員でない者
 ィ 職務停止命令を受けた後、その職務停止中の期間中である者
 ゥ 登録が取消された者、又は業務が停止された税務法人の理事であった者であって、その取消後3年を経過しない者
 ③ 税務法人は理事と職員(職員である所属税務士をいう)を合わせ5人以上の税務士として構成しなければならない。
 ④ 税務法人には代表理事(代表取締役)を選任しなければならない。
 ⑤ 税務法人の社員である税務士の登録が取消され、又は定款に決められた事由が生じた時、又は社員の総会による決議があった場合には、当然に社員の地位は脱退される。

(4) 資本金等(第16条の6)
 ① 税務法人の資本金は2億ウォン以上でなければならない。
 ② 税務法人は、直前事業年度期末貸借対照表の資産総額から負債総額を差引いた金額(以下自己資本という)が第1項の資本金に達しない場合には、その達しない金額を毎事業年度終了後、6ヶ月以内に、社員の贈与としてこれを補填し又は増資しなければならない。

(5) 損害賠償準備金(第16条の7)
 税務法人は、その職務を行なうことによって生じた、依頼人の損害に対する賠償責任を保障するため、当該事業年度における総売上の2%に該当する金額を事業年度ごとに損害賠償準備金として積立なければならない。 右の積立金は直前2ヶ事業年度及び当該事業年度の総売上平均額の10%に達する金額を限度とする。

(6) その他の規定(第16条の8以降)
 ① 出資の制限 :税務法人は自己資本の25%を超過してその他の法人に出資し、又は他人のために債務の保証をしてはならない。
 ② 税務法人は、その名称中「税務法人」という文字を用いなければならない。
  従って、登録した税務法人でない者は「税務法人」という文字、又は類似な名称を用いることが出来ない。
 ③ 税務法人は、主事務所以外に分事務所も設置することができる。この場合、各分事務所には一人以上の理事である税務士が常勤しなければならない。
 なお、税務法人の理事と所属税務士は当該税務法人以外に、別の事務所を設置することは出来ない。
 ④ 業務の執行方法 : 税務法人は、その法人の名義で業務を行ない、業務を遂行する場合にはその業務を担当する税務士を指定しなければならない。但し、所属税務士を指定する場合には、その所属税務士と共に理事を共同で指定しなければならない。
 ⑤ 第1項により指定された理事又は所属税務士は、指定された業務を遂行する場合、各々その税務法人を代表する。
 ⑥ 税務法人が作成する文書には税務法人の名義を表記し、その業務を担当する税務士が署名捺印しなければならない。
 ⑦ 税務法人の理事又は所属税務士であった者は、当該税務法人に所属した期間中において、当該税務法人が行なった又は行なうことを承諾した業務に関しては、退職後税務士の業務を行なうことが出来ない。 但し、当該法人の同意がある場合には除く。
 ⑧ 解散による損害補償 : 税務法人が、定款が定める事由、社員総会の決議、合併、登録の取消、破産、裁判所の命令又は判決により解散される場合には、第16条の7条の規定によって積み立てられた損害賠償準備金を税務士会に預置しなければならない。 ― この預置金は、預かった日から3年が経過する時返還される。
 ⑨ 税務法人に対しては、税務士の権利及び義務に関する規定を準用し、又、この法律に定めていない事項は有限会社に関する規定を準用する。

第三章  その他の規定
(1) 税務士会の設立と監督(第18条)
 ① ソウルに本会である「韓国税務士会」を設立し、その傘下には各地方国税庁(地方国税局)ごとに地方税務士会を設立し、税務士は強制加入しなければならない。
 ② 税務士会は財政経済府の監督を受ける。

(2) 懲戒
 税務士が、税務士法を違反し、又は税務士会の会則に違反した場合には、財政経済府長官は税務士懲戒委員会の決議を持って、その登録を取消又は2年以内の期間を定め、その職務の停止を命ずることができる。