税制研究53号(税制経営研究所2008年1月号)原稿(末尾PDFファイル)
行政不服審査法の改正に伴う国税通則法改革の方向と課題

長谷川 博


1.はじめに
 平成19年7月に、総務省に設置された「行政不服審査制度検討会」から「最終報告−行政不服審査法及び行政手続法改正要綱案の骨子」(以下「報告書」という。)(注1)が公表され、本年の通常国会において、この報告書にもとづき行政不服審査法(以下「行審法」という。)の改正案が審議される予定であり、これに伴い、整備法として国税に関する不服申立てに係る国税通則法(以下「通則法」という。)の見直しが行われる運びとなっている。
 行審法は、行政庁の処分等に対する不服申立て手続(行政の事後救済手続)の一般法として、昭和37年10月施行以来40年以上が経過し、その間、平成6年10月には行政の事前手続を定めた行政手続法(行政の事前救済手続)が施行され、平成16年には、行審法と同時に施行された行政事件訴訟法(司法救済手続)が改正された。このため、行審法と密接に関連する行政手続法や改正行政事件訴訟法との整合性を図る必要性が求められていた。
 また、行政作用のあり方も変容してきており、国民の権利利益に関する意識が変容するとともに、利害関係も多様化・複雑化し、現行の不服申立て制度が       「簡易迅速」な「権利利益の救済」という目的にそぐわなくなってきていた。
 行審法改正の趣旨は、報告書の行審法の目的規定に表れており、現行の「簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保すること」から「簡易迅速で公正な手続を定めることによって、国民の権利利益の救済を図り、あわせて行政の適正な運営を確保すること」(傍線、引用者)に改められ、従前以上に国民の権利利益に重点を置いた目的規定となっている。
 通則法は、第80条第1項において、「国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立てについては、この節その他国税に関する法律に別段の定めがあるものを除き、行政不服審査法(第2章第1節から第3節まで(不服申立てに係る手続)を除く。)の定めるところによる。」と規定しており、国税に関する不服申立て手続については、行審法の特例的位置にある。
 行審法改正に伴う関係法令の整備法に関して、報告書は、「現行行審法が定める手続に対して個別法で認めていた特例については、一般法である改正行審法で定める手続の水準が上がることにより、一般法の見直しの趣旨を踏まえ、改正行審法の規定を適用することとするか、あるいは個別法において改正行審法と同等又はそれ以上の水準の内容とする旨の改正作業が必要になる。」と述べていることは注視すべきである。
 本稿では、行審法改正に伴う通則法改正の動きと日本税理士会連合会(以下、日税連という。)の「行審法の改正に伴う通則法改正を求める意見書」(以下、日税連の意見書という。)を紹介し、整備法としての通則法の改正だけではなく、通則法の抜本的な改革の課題について論及したい。


2.行審法改正に伴う通則法改正の動き
 通則法の改正は、税制改正の分野であるが、平成19年11月に発表された政府税制調査会の「抜本的な税制改革に向けた基本的な考え方」(注2)の各論7「納税環境の整備」(29頁以下)の箇所では、通則法の改正については触れられておらず、従来と同じ内容である@納税者利便の向上、課税の適正化としての電子申告・電子納付の普及について、A納税者番号制度の制度設計について、B罰則の強化について、そしてC広報・租税教育について、述べているだけである。
 一方、平成19年12月13日の自由民主党「平成20年度税制改正大綱」(注3)では、第三具体的内容の七「円滑・適正な納税のための環境整備」の箇所5(37頁)で、「国税に関する不服申立て手続について、行政不服審査法の見直しに伴い、次に掲げる所要の規定の整備を行う。」としている。すなわち、
「(1)「異議申立て」を「再調査請求(仮称)」に名称変更する。
(2)不服申立期間を処分があったことを知った日から3月以内(現行2月以内)に延長する。
(3)再調査請求(仮称)についての決定を経ずに審査請求をすることができる期間を2月(現行3月)に短縮する。
(4)審査請求人の処分庁に対する質問・争点及び証拠の整備等の手続規定の整備を行う。
(5)その他所要の整備を行う。」
 そもそも行審法の改正は、平成16年に終えた司法制度改革の中で積み残された準司法制度改革の問題として議論されてきた側面がある。
 準司法制度改革について、自民党司法制度調査会では、平成19年3月に「21世紀社会にふさわしい準司法手続の確立をめざして」(注4)という提言を政府に申し入れており、これが今般の報告書にも影響を与えているものと解される(注5)。
 他方、平成19年12月26日の民主党の「税制改革大綱」の中の「納税環境整備」の項(7頁)では、通則法改正には触れていないが、「納税者の権利を明確にする『納税者権利憲章(仮称)』を制定する」(注6)という文言を盛り込んでいることは注目される。
 本題の行審法の改正に伴う通則法の改正に関しては、日本弁護士連合会、租税訴訟学会、そして日税連から意見書が出されているが、本稿では、次に日税連の意見書(別紙)を紹介するとともに、通則法の改革の方向と今後の課題について言及することにする。


3.整備法による通則法改正と通則法の抜本的改革
 前述したように、通則法は、国税に関する不服申立てについて、行審法の特例的位置にあるが、行審法の改正に伴う整備法による通則法改正という観点と通則法の抜本的改革という観点とは異なる。
 通則法は、税務行政手続法に関する一般法としての性格を有するものであるが、昭和37年4月に施行されてから実質的な改正がなされておらず、したがって、納税者の権利保護及び救済手続制度として不十分なものとなっており、現行規定の見直しや不備な規定の導入等の抜本的な改革が必要であるという意見が多く存している。
 例えば、納税者の権利利益の保護及び救済手続制度として必要な事項を挙げると、@通則法第1条(目的)に納税者の権利保護規定を導入すること、A税務調査手続の適正手続の規定を制定すること、B平成6年に施行された行政手続法の適用を除外する通則法第74条の2の規定を見直すこと、C所得税法や法人税法で青色申告者に対する更正処分をする場合に特典として認められている理由の附記をすべての課税処分に適用されるように通則法で規定すべきであること、D国税不服審判所を執行機関から独立した機関とすることや国税審判官の任用に関する基準を策定すること等、多くの改革すべきものがある。
 日税連の意見書は、「通則法の改正意見」と「改革の方向性意見」に分けて論じている。
 すなわち、前者は、通則法改正意見として、次の5項目を挙げているが、これは、上述した自民党「平成20年度税制改正大綱」の(1)から(4)で掲げられているものとほぼ同様である。
「1 異議申立てを廃止し、再調査請求制度を創設すること
    簡易・迅速な権利救済制度として機能を充実させる
 2 審査請求期間を2箇月から3箇月以内に延長すること
 3 審査請求の標準審理期間を設けること
 4 証拠書類の閲覧・謄写を認めること
 5 審理手続きを充実させること
  (1)口頭意見陳述を認める対審的構造の手続き規定を整備する
  (2)争点主義的運営に基づく手続き規定を整備する」
 後者は、改革の方向性意見として次の6項目を挙げているが、整備法に関する意見書という性格上、通則法全般の抜本的な改革案までには至っていない。
「1 再調査請求は審査請求の前置でなく、納税者選択とすること
 2 全ての課税処分に理由附記を義務づけること
  ・理由附記を青色申告者への特典としないこと
 3 第三者機関(審査会等)への意見送付手続きを行なうこと
   国税不服審判所の独立性を明確にし、審査制度の公正性を高めるため
 4 国税審判官の任用基準を策定すること
   処分庁と裁決庁の機能分離の観点から、任用基準を公表すること
 5 行政庁の不作為について、処分を求める制度を設けること
 6 通則法の抜本的改正について
  ・通則法に「国民の権利利益の保護及び救済を図る」規定を創設すること
  ・審査請求手続きを経ないで直接訴訟提起できる制度を創設すること
  ・行政手続法除外規定を廃止すること」
 しかしながら、日税連意見書の末尾(おわりに)では、次のように行審法改正の趣旨や行政手続法との関係から今般の通則法改正の課題について触れている。これは、上記自民党の税制改正大綱にある「(5)その他所要の整備を行う。」にも関係するが、今般の通則法改正が後退しないための意見であると解される。
 すなわち、「通則法の改正は、今般の行審法改正の整備関連として対応するだけではなく、納税者の権利救済に資する信頼される国税不服審査制度の構築に向けて、さらなる改革を行う観点から検討されなければならない。
 これらの改正により、今後、国税不服審査制度が国民の権利利益により重点を置いたものとなることから、この点を明らかにするため、通則法第1条(目的)に、行審法、行政手続法と同様に、『国民の権利利益の保護及び救済を図る』との明文規定を加えるべきである。
 この他、次の点についても検討すべきである。
 @現行の『不服申立て前置主義(通則法第115条)』を改正し、納税者の選択により、審査請求手続を経ないで直接訴訟を提起できる制度を創設すること。
 A通則法第74条の2の行政手続法適用除外規定を廃止すること。」
 日税連の意見書は、行審法の改正に伴う国税に関する不服申立てに係る通則法の改正という内容での意見書として最大限の努力を払っているものと評すべきであるが、今後の行審法改正の内容を監視することが必要になる。
 本稿では、さらに、通則法の抜本的な改革に資する意味で、通則法改革の今後の課題について論及してみたい。


3.通則法改革の課題
 税務行政手続法としての性格を有する通則法に対する抜本的な改革の課題を論ずる場合、納税者の権利利益の救済手続を課税処分前の事前救済手続と課税処分後の事後救済手続に分けて考える必要がある。
(1)事前救済手続
 事前救済手続とは、行政手続法の趣旨(行政手続法1条参照)と同じく、行政処分前の適正手続の要件である告知・聴聞制度を基本として行政過程の透明性と公正性を保障し、納税者の権利利益を保護するものである。
 しかし、我が国の税務行政手続については、税務調査の適正手続(事前通知や理由開示など)規定が欠如しているため、税務調査における納税者の権利が保障されておらず、また、通則法の条項(通則法74条の2)で行政手続法の適用が除外されているため(注7)、課税処分前の理由の提示や聴聞手続等の保障制度が存しない。そのため、課税庁の裁量権が広く認められる結果となっており、納税者の権利保護の観点から問題が提起されている(注8)。
 例えば、税務調査手続の規定が具備していないために、質問検査権の行使に対する事前通知、調査の理由の開示、調査の日時・場所等に関するトラブルが生じ、時には納税者が泣き寝入りすることも起きている。また、課税処分前に聴聞や弁明の機会が保障されていないために、納税者は時間と費用をかけて事後救済手続を選択するか、泣き寝入りをするという事態もみられる。
 このような要因としては、第一に、通則法第1条(目的)に、行審法、行政手続法にあるような、「国民の権利利益の保護及び救済を図る」との明文規定が存しないことが挙げられ、第二には、「納税者の権利」に関する手続規定が存しないということ、さらに第三には、税務調査手続に関する適正手続の保障規定が不備であることが挙げられている。
 諸外国では、国税に関する基本法や納税者権利憲章の中で納税者の権利を保障するようになっているが、我が国でも通則法を抜本的に改革して納税者の権利規定や納税者の権利憲章を導入することが求められている(注9)。
 さらに、違法ないし不当な税務調査等に対してこれを阻止し、改善するための苦情の申入れ手続等も諸外国では導入されているが、我が国の場合には納税者の苦情処理制度が極めて貧弱である(注10)。
 このような中にあって、上記民主党の「税制改革大綱」が、「納税者の権利を明確にする『納税者権利憲章(仮称)』を制定する」という改革案を提言していることは重要である。

(2)事後救済手続
 事後救済手続として、現在、我が国の国税の課税処分に対する不服申立て制度は、原処分庁に対する「異議申立て」制度及び上級機関の性格を有する国税不服審判所に対する「審査請求」制度が設けられている(原則2審制について通則法第75条、なお、不服申立て前置主義については同法第115条参照)。
 これに対しては、今般の行審法改正に伴い、国税に関する不服申立て手続が改正されることになり、不服申立て手続に関しては、日税連の意見書にあるような改正案が考えられるが、ここでは、通則法の抜本的改革の課題として、国税不服審判所の機構改革の問題と裁決権能の問題について言及したい(注11)。
 T国税不服審判所の機構改革の問題
 国税不服審判所は、審査庁として昭和45年に設置されたが、国税不服審判所長は、国税庁長官が財務大臣の承認を受けて任命することとなっており(通則法78条2項)、国税不服審判所は、国税庁の下にある機関となっているが、これは、納税者からみて公正な第三者機関としての信頼を得るものとはいえず、国税不服審判所の執行機関からの独立性が確保されなければならない。
 また、審判官等職員構成の問題として、審判官等の職員の身分は、通常の税務職員と同じ税務行政官であり、外部から任用された者の地位も同様である。さらに、国税不服審判所と税務署等の間には、常時、人事交流が行われている。
 このような国税不服審判所の独立性の問題に対しては、その組織を内閣府の機関とし、財務省・国税庁とは独立した機関とすること、また、審判官等は裁判官に準ずる専門官として位置づけ、その採用は司法試験に準ずる試験で行うものとし、さらに、財務省・国税庁等とは人事交流を行わないこととすることで、第三者的性格を強化すべきであるという意見がある(注12)。
 また、審判の公正性を高めるために、韓国のように民間から非常任審判官を任用する方法(審判官の半数以上)も提案され、さらには、ドイツのような第三者機関である財政裁判所に機構改革する方法も提言されている。
 なお、平成19年7月から税理士等民間の専門家から審判官の任用(税理士4名)を実施したが、税理士等を廃業して就任しなければならない等の問題があり、非常任審判官制度の導入など検討されなければならない。
 A裁決権能の問題
 現行の国税不服審判所長は、裁決に際し次のように国税庁長官の指示等を受ける場合がある。
「(通則法第99条)国税不服審判所長は、国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈と異なる解釈により裁決をするとき、又は他の国税に係る処分を行なう際における法令の解釈の重要な先例となると認められる裁決をするときは、あらかじめその意見を国税庁長官に申し出なければならない。
2 国税庁長官は、前項の申出があつた場合において、国税不服審判所長に対し指示をするときは、国税不服審判所長の意見が審査請求人の主張を認容するものであり、かつ、国税庁長官が当該意見を相当と認める場合を除き、国税審議会の議決に基づいてこれをしなければならない。」
 今般の行審法改正に係る報告書では、裁決を行う審査庁は、審査請求人の申出があるときには、一定の場合(@審査請求が不適法であり、却下するときA裁決で、審査請求の全部を認容するときB法律に特別の定めがあるとき)を除き、審理員意見書及び審査庁の意見書を「審査会」に提出しなければならない、と提言している。これは、審理庁(裁決庁)が審査請求を棄却する場合には、審査会に諮問しその答申を経て裁決を行う趣旨である。
 審査会とは、行審法の規定によりその権限に属せしめられた事項を調査審議するため、各府省の分野を横断して審理する統一的な合議制の機関として、優れた識見を有する委員で構成される行政不服審査会をいう。
 審査庁は、第三者裁決機関を除き処分庁の上級行政機関であることから、審理の客観性及び公正性を確保するためには第三者機関としての審査会の意見を聞いてから裁決を行うというという意味で評価できるものである(注13)。
 したがって、現在の国税不服審判所は、第三者裁決機関とはいえないので、今般の整備法による通則法の改正においても、裁決(棄却)に際しては審査会に対する意見送付手続が求められることになる。この場合、審査会は、国税庁官の通達に拘束されないものと解されている。
 他方、通則法第99条に関し、平成19年12月14日の自民党司法制度調査会の「準司法改革の成果と今後の指針」(緊急提言)は、「国税通則法99条は、課税行政の長である国税庁長官が、準司法機関である国税不服審判所長の判断に容喙することを許すものであり、準司法手続きの中立・公正性に疑いを生じさせている。こうした疑いは、国税不服審判所制度が創設された昭和45年当時の国会審議においても繰り返し指摘され、衆議院では独立した租税審判制度の創設について継続的な検討を求める附帯決議が付されていたところであり、99条の改廃については継続的な検討課題としていかなければならない。もっとも、99条を廃止し、国税不服審判所を国税庁から完全に独立したものとする場合、様々な法制上の課題(国税不服審判所の裁決に対して国税庁が取消訴訟を提起できる制度とすべきか、そうだとしても行政機関同士が相争う場合の訴訟のあり方や審級省略を採用するか否かなど)に直面することになろう。しかし、こうした行政審判制度の検討は、我々が3月提言において示した行政審判庁構想の実現への一里塚ともなり得るものである。内閣官房及び国税不服審判所において、99条の改廃とその後のあるべき制度像について真摯な検討をするほか、引き続き、法曹有資格者の活用や国税と地方税の不服申立てのあり方いついての検討等の諸課題に真剣に取り組んでいくことが強く望まれる。」(注14)と指摘している。
 このように、国税不服審判所の機構改革の問題と裁決権能の問題は一体となっており、現在この問題が緊急の課題として議論されていることは注目すべきである。

(注1)http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/070717_3.html
(注2)http://www.cao.go.jp/zeicho/index.html
(注3)http://www.jimin.jp/jimin/seisaku/2007/seisaku-031.html
(注4)http://www.jimin.jp/jimin/seisaku/2007/seisaku-002.html
 なお、後述するが、平成19年12月には、自民党司法制度調査会が「準司法改革の成果と今後の指針」(緊急提言)を発表している。
 http://www.jimin.jp/jimin/seisaku/2007/seisaku-032.html
(注5)また、日税連は、平成18年11月15日に自民党司法制度調査会のヒアリングにおいて、「国税不服審判所の在り方についての意見」を述べ(日税連会報第1227号3頁参照)、国税不服審判所の基本理念及び公正手続確保の観点から、執行機関と裁決機関との分離を明確化するために@執行機関の職員からのローテーション人事の是正、A税理士を審判官に任用すること等を要望した。その後、自民党の意向を受けて、国税不服審判所は、制度創設以来はじめて、税理士等民間の専門家を審判官に任用する方針を決めたといわれている。
(注6)http://www.dpj.or.jp/news/dpjnews.cgi?indication=dp&num=12440
(注7)行政手続法制定時、税務行政手続等の特殊な分野の不利益処分等に対する事前手続は、通則法等の個別法でその整備ないし見直しが求められていたが、実際は行政手続法に対する特例法という理由で適用が除外されてしまったという背景がある。
(注8)長谷川博「隠ぺい又は仮装」の認定と青色申告の取消し」(税理、2008年1月号特集「課税庁の『裁量権』と税理士の対応」146頁)では、裁量権の統制として、課税庁の処分基準等の公開、適正手続の保障等の必要性を指摘している。
(注9)長谷川博「政府税制調査会答申と税務行政の課題」(税制研究44号、2003年8月)では、納税者の権利保護制度について論じ、過去に野党から提案されて廃案となった通則法改正案も紹介している。
(注10)長谷川博「『納税者支援調整官』制度の現状と課題―苦情処理事案の分析と国際比較を通して」(税務事例、2007年1月号)では、我が国の税務に関する苦情処理の現状を分析している。
(注11)長谷川博「国税不服審判制度の国際比較―日本・韓国・アメリカの比較」(税制研究52号、2007年8月)では、我が国の国税不服審判所制度の問題を韓国・アメリカと比較している。
(注12)北野弘久「税法学原論(第6版)」(青林書院)495頁。
(注13)ただし、筆者の経験でいうと、第三者諮問機関が審理に実質的に関与している内閣府の「情報公開・個人情報保護審査会」が、税務調査のマニュアルに関する情報開示の審査請求に対して、審査庁(国税庁)の意見とほぼ同じような内容で不開示の答申をしている事例もあり、したがって、行政不服審査会の人選等その運用のあり方が重要である。
(注14)http://www.jimin.jp/jimin/seisaku/2007/seisaku-032.html

 (はせがわ ひろし 税理士)

行政不服審査法の改正に伴い国税通則法の改正を求める意見
               平成19年12月19日
                    日本税理士会連合会
はじめに
 国税通則法(以下「通則法」という。)は、第80条第1項において、「国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立てについては、この節その他国税に関する法律に別段の定めがあるものを除き、行政不服審査法(第2章第1節から第3節まで(不服申立てに係る手続)を除く。)の定めるところによる。」と規定しており、行政不服審査法(以下「行審法」という。)とは密接な関係にある。
 本年7月に、行政不服審査制度検討会より、「最終報告−行政不服審査法及び行政手続法改正要綱案の骨子−」(以下「報告書」という。)が公表され、次期通常国会において、この報告書に基づき行審法の改正案が審議される予定である。
 ついては、行審法の改正に伴う整備関連として、通則法の改正を要する点について意見を述べることとする。
 さらに、報告書の文頭に謳う「今後、本報告を踏まえて、政府において、行審法及び行政手続法の改正作業が進められ、国民の権利利益の救済ないし保護に資する制度が整備されることを期待する。」との改正目的を達成する観点から、今後における国税不服審査制度の改革の方向性について意見を表明する。
 
1.異議申立てを廃止し、審査請求に一元化するとともに、例外的な制度として再調査請求(仮称)を創設すること(通則法改正意見及び改革の方向性)
 報告書では、現行行審法で、「この法律による不服申立ては、行政庁の処分又は不作為について行うものにあっては審査請求又は異議申立てとし、審査請求の裁決を経た後さらに行うものにあっては再審査請求とする。(第3条第1項)」と定めているところを、審査請求の審理手続きにおいて新たに審理員を導入するなどにより、不服申立ての種類を一元化し、簡易迅速な手続きによる国民の権利利益の救済に資することを述べている。
 一方、通則法には、異議申立てと審査請求との二つの不服申立て制度があり、審査請求に際しては、青色申告に係る更正に不服がある場合等所定の場合以外には、原則として、異議申立て前置主義が採用されている。
 このように異議申立てを経ずには審査請求をすることができないという制度は、納税者の利便性の観点から見直す必要がある。
 そのため、報告書では、簡易迅速な手続により国民の権利利益の救済を図るために、現行の異議申立て制度は廃止し、原則として審査請求に一元化すべきであるとしている。
 しかしながら、報告書が「処分に関する不服が要件事実の認定の当否に係るものであって、かつ、その処分が大量に行われるもののように、処分担当者等が相手方等の申立てを契機として要件事実の認定に関して再調査する必要が特に大きい特別な類型については、審査請求手続をとる前に、処分の事案・内容等を把握している(できる)処分担当者等が、審査請求より簡略な手続により改めて処分を見直すことに意味があると考えられる。」(報告書P.9)と述べているとおり、現行制度では、異議申立ての段階において、権利救済が行われる場合や納税者が課税処分に納得する場合もあり、異議申立てが権利救済の手段として機能している面もある。
 したがって、税務について、不服申立ての基本構造の例外として、再調査請求(仮称)を認めることは、一定の必要性があると考える。

【通則法改正意見】
 現行の異議申立ては廃止することとし、新たに、再調査請求(仮称)を創設する。
 再調査請求期間は、処分があったことを知った日から3箇月以内とする。

【改革の方向性】
 報告書は、国税不服審査制度における審査請求は、処分庁が再調査請求についての決定をした後でなければすることができないこととしている。
 しかし、再調査請求を経た後でなければ審査請求をすることができないという制度は、納税者の利便性の観点から見直すべきである。
 したかって、審査請求について再調査請求の前置を強制するのではなく、審査請求を求めるか再調査請求を求めるかは、納税者の選択に委ねることとすべきである。

2.審査請求期間を延長すること(通則法改正意見)
第1 審査請求期間
1 審査請求は、処分があったことを知った日から3箇月を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2 <以下省略>
(報告書P.13)  報告書では、審査請求期間を現行の60日以内から、国民が不服申立て期間の徒過により権利救済を受ける機会を失わないように延長することとしており、同様の趣旨から、国税に係る審査請求においても、現行の2箇月以内(通則法第77条)から3箇月以内に審査請求期間を延長すべきである。

3.標準審理期間を設けること(通則法改正意見)
第2 標準審理期間及び審理状況に関する説明
1 標準審理期間
  審査庁は、審査請求がされてから裁決をするまでに通常要すべき標準的な期間を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、審査庁における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。
2 審理状況に関する説明
  審理員は、審査請求人の求めに応じ、当該審査請求に係る審理の進行状況及び当該審査請求に対する裁決の時期の見通しを示すよう努めなければならない。
 (報告書P.15)
 通則法第115条では、審査請求がされた日の翌日から起算して3月を経過しても裁決がないときには、取消しを求める訴えができると規定しているが、標準審理期間の定めがないことから、審査請求等においても上記報告書の提言に準じた規定を制定すべきである。

4.国税審判官の所持する証拠書類の閲覧、謄写を認めること(通則法改正意見)
 報告書は、「現行行審法第33条第2項では,審査庁に対して原処分庁から提出された書類その他の物件の閲覧を求めることができると規定されているが、審査請求人等の手続保障の充実を図るとの見地から、審査請求人又は参加人が、審理員に対し、原処分庁から提出されたものに限らず審理員が所持する、審査請求の対象である処分の違法又は不当の判断に必要な証拠書類等の閲覧を求めることもできるようにするべきである。<中略>なお、証拠書類等の謄写も認めるべきであるとの強い意見もあったところであり、立法時までに検討の上、可能であれば必要な措置が講じられることが望まれる。(報告書P.28)」と述べている。
 税務での審査請求においては、原処分庁から提出された書類等の閲覧は認められているが(通則法第96条第2項)、審判官の所持する証拠書類についても同様の規定を制定すべきである。
 また、複雑な税額計算等、閲覧のみでは対処し難い事例が多いことから、証拠書類の謄写についても必要な措置を講じるべきである。

5.審理手続を充実させること(通則法改正意見)
 報告書は、審査請求手続について、より国民の権利救済に資するために、審理手続を充実させることとし、書面審理を原則とするものの、審査請求人に口頭意見陳述の機会を保障すること、並びに争点及び証拠の整理の規定が必要である旨を述べている。
(1)対審的構造に基づく手続規定を整備すること
第2 審理手続の内容
1 口頭意見陳述
(1) 審査請求の審理は、原則として書面によるが、審査請求人又は参加人の申立てがあったときは、審理員は、審査請求の趣旨及び理由(審査請求の適法要件を含む。)に関し、申立人に口頭で意見を述べる機会を与えなければならない。ただし、申立人の出頭が困難であるなど口頭意見陳述を実施しないことについて相当な理由があるときは、この限りでない。
(2) 審理員は、審査請求人、参加人及び処分庁(以下「審理関係者」という)の意見を聴いて、口頭意見陳述の日時及び場所を指定することができる。
(3) 審査請求人は、口頭意見陳述において、審理員の許可を得て、処分の内容及び理由に関し、処分庁に対し質問を発することができる。
   審理員は、審理関係者に対し、釈明を求めることができる。
   審理員は、口頭意見陳述を公正かつ適切に行なうために必要な措置を採ることができる。
(報告書P.22)
   通則法は、審査請求に異議申立てに関する規定(通則法第84条第1項及び第2項)を準用する規定(通則法第101条第1項)を置き、審査請求人の口頭意見陳述に関する規定を設けているが、対審的構造に基づく手続きとしては不十分である。
 そこで、上記規定を改正し、報告書に記載のとおり、審査請求の審理は、原則として書面によるが、審査請求人の申立てがあったときは、原処分庁の出席のもとで、審査請求人の口頭意見陳述を認める対審的構造に改めるべきである。

(2)争点主義的運営に基づく手続規定を整備すること
 報告書では、通則法には規定のない争点及び証拠の整理について、以下の規定を設けることとしている。
第3 争点及び証拠の整理
1 審理員は、審理すべき事項が多数であり又は錯そうしているなど事件が複雑であることその他の事情によりその適正かつ迅速な審理を行うため必要があると認めるときは、争点及び証拠の整理を行うものとする。
2 審理員は、審査請求人及び処分庁の意見を聴いて、争点及び証拠の整理を行う日時を指定し、審理関係者に、審理員の指定する場所に出頭して若しくは音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって陳述させ、又は書面を提出させるなどの方法により、争点及び証拠の整理を行うものとする。
  審査請求人は、審理員の許可を得て、処分の内容及び理由に関し、処分庁に対し質問を発することができる。
3 審理員は、争点及び証拠の整理を行ったときは、次に掲げる事項を審理関係者に明示し、審理の計画的な進行を図るものとする。
@ 口頭意見陳述、参考人の陳述、鑑定、検証、審査請求人又は参加人の審尋等の審理を行う日時
A 主張書面、証拠書類、証拠物その他物件の提出期限
B 審理手続の終結予定時期
(報告書P.26)
 昭和45年3月の国税不服審判所創設時の衆議院大蔵委員会において、「総額主義に偏することなく、争点主義の精神をいかし、その趣旨徹底に遺憾なきを期すべきである。」との附帯決議が採択されている。また、金子宏東京大学名誉教授は、総額主義は手続き的保障原則との関係で問題があると指摘しており、とりわけ、「総額主義によれば理由の差替えは審査請求の審理または訴訟における口頭弁論の終結時まで原則として自由に認められることになるが、争点主義によれば、理由の差替えは原則として認められないことになる。(「租税法〔第12版〕」P.730)」と述べている。
 したがって、争点主義的運営を明確にするため、報告書で述べられているように、争点及び証拠の整理に関する規定を整備すべきである。

6.全ての課税処分に理由附記を義務づけること(改革の方向性)
 現行の所得税法や法人税法では、税務署長は、青色申告者に対して更正をする場合には、その理由を附記しなければならないとされている(所得税法第155条第2項、法人税法第130条第2項)。
 この理由附記の制度は、シャウプ勧告によって昭和25年に青色申告制度が創設された際に、納税者に記帳慣行を定着させ、その記帳に基づいて自ら正確な申告ができるようにとの狙いをもって創設されたものであり、「青色申告者の特典」という枠のなかで機能している。
 しかし、行政処分の理由附記は、処分庁の判断の合理性を担保し、かつ、納税者に不服申立ての便宜を与えるものであり、行政の恩恵もしくは限られた者への特典に止められるべきものではないので、他の行政処分と同様な取扱いをすべきであり、理由附記が特典とされる制度は一刻も早く見直されることを望むものである。
 また、理由附記が青色申告者の特典となっているため、他の納税者が課税処分の理由を知るために異議申立てを利用する例が多く見受けられるが、これは、異議審理庁が決定の手続きを行う場合には、異議決定書に理由附記が必要であるためである(通則法第84条第4項、第5項)。このような弊害をなくすためには、全ての課税処分について、一般の行政処分と同様に、当然に理由附記が強制されるべきである。
 したがって、不服申立ての種類の一元化を機として、通則法第28条(更正又は決定の手続)を改正し、更正通知書または決定通知書には理由を附記しなければならないこととすべきである。


7.第三者機関の審理への関与を明確にすること(改革の方向性)
1 意見送付手続
 審査庁(国の行政機関又は地方公共団体若しくはその機関に限る。)は、審査請求人の申出があるときには、次に掲げる場合を除き、審理員意見書及び審査庁の意見書を、後記第9章の審査会等に提出しなければならない。
@審査請求が不適法であり、却下するとき。
A裁決で、審査請求の全部を認容するとき。
B法律(条例に基づく処分については、条例を含む。)に特別の定めがあるとき。
(報告書P.34) 第9章 審査会等
1 国における行政不服審査会
 この法律の規定によりその権限に属せしめられた事項を調査審議するため、各府省の分野を横断して審理する統一的な合議制の機関として、優れた識見を有する委員で構成される行政不服審査会を置く。
(報告書P.42)  報告書は、「現行制度上、法律(条例に基づく処分については、条例を含む。)の定めにより第三者機関が審理に関与している場合を除き、行政の自己反省機能を高め、より客観的かつ公正な判断が得られるよう、国民の権利利益に重大な影響を与えるような一定の案件について、優れた識見を有する委員で構成され、法令解釈に関する行政庁の通達に拘束されずに、違法又は不当について調査審議を行う処分庁又はその上級行政庁以外の第三者機関が、審理に関与することを制度化することとする。(報告書P.35)」と述べ、第三者機関が審理に関与する必要性を指摘している。
 国税不服審判所は、昭和45年の通則法改正によって設けられた審査裁決機関であり、国税に関する執行機関から分離独立した機関であることが求められている。
 したがって、国税不服審判所の独立性をより明確にし、国税不服審査制度の公正性を高めるために、審査請求人の申出があるときは、報告書が示している審査会等に対する意見送付手続きを行わなければならないこととすべきである。

8.国税審判官の任用に関する基準を策定すること(改革の方向性)
 報告書は、客観的かつ公正な審理を実現するため、審査請求の審理は、「審理員」が行うこととしている(報告書P.17以下)。
 また、この理念を具体化するため、「審理に関する権限について、作用法上の権限とは別の手続法上の権限として審査庁の裁決権限と区別し、行政組織の中における当該処分に関する決裁ラインから独立した審理員が審理を行う職能分離を理念とすべきである」と述べている。
 国税審判官は、処分庁である税務署及び国税局とは分離された国税不服審判所に属してはいるものの、現実には、国税審判官のほとんどが税務行政の執行系統に属していた国家公務員であり、任期満了後は元の執行機関に戻るなど、第三者的性格が保持されているとは言い難い状況にある。
 そこで、報告書の趣旨を踏まえ、国税審判官の任用の基準を定めることとし、この基準を公表することとすべきである。
 特に、通則法施行令第31条第1項第2号に規定する「国税に関する事務に従事した経験を有する国家公務員」を国税審判官に任用する場合には、執行機関と裁決機関とを明確に分離する観点から、具体的な基準を設けるべきである。
 また、国税審判官の任期は長期間とし、短期間で再び執行機関に戻るような人事ローテーションは見直すべきである。

9.行政庁の不作為について、一定の処分をすることを求める制度を設けること(改革の方向性)
第2 不服申立ての基本構造
1 不服申立ての種類の一元化
<省略>
(3) 行政庁の不作為については、当該不作為に係る処分を申請した者は、一定の処分をすることを求める審査請求をすることができる。
<省略>
(報告書P.4) 1 処分庁の上級行政庁が審査庁である場合
<省略>
(4) 法令に基づく申請に係る一定の処分をすることを求める審査請求に対し、当該申請に係る処分をしないことが違法又は不当と認められるときは、審査庁は、処分庁に一定の処分をすべき旨を命ずるとともに、裁決で、その旨を宣言することができる。ただし、審査庁は、審理の状況その他の事情を考慮して、当該申請に対する何らかの処分をすべきことを命ずる裁決をすることがより迅速な争訟の解決に資すると認めるときは、その旨の裁決をすることができる。
<省略>
(報告書P.38)  報告書では、上記のように行政庁の不作為について、一定の処分をすることを求める審査請求をすることができる制度が提案されている。この制度は、先般の行政事件訴訟法の改正により設けられた「義務付けの訴え」(同法第3条第6項)に準拠したもので、「義務付け裁決(仮称)」といわれる制度の必要性を指摘しているものである。
 現在、各種の申請等に係る税務行政庁の不作為についての不服申立て制度は、現行の通則法にはなく、行審法の不服申立て制度(行審法第7条)によりすることになっている。
 しかし、現行の行審法では「行政庁の不作為については、異議申立て又は当該不作為庁の直近上級行政庁に対する審査請求のいずれかをすることができる。」(同法第7条)と定められ、不作為についての審査請求は、国税不服審判所長ではなく国税局長又は国税庁長官にしなければならない。このため、処分に対する審査請求は国税不服審判所長に、不作為に対する審査請求は国税局長等になる。これは、国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立てが行審法の適用除外(通則法第80条)となっているために生ずるものである。
 そこで、行審法の本来の目的としている簡易・迅速な権利利益の救済の実現や争訟の一回的解決の観点から、通則法に「義務付け裁決(仮称)の規定」を設けるべきである。

第1 一定の処分を求める申出
1 書面で具体的な事実を適示して一定の処分を求める申出(行政手続法第2条第3号に規定する「申請」を除く。)があったときは、当該処分に係る行政庁は、当該処分の根拠となる法令に照らし必要と認めるときは、当該処分をするなど適当な措置を採らなければならない。
(報告書P.45)  報告書は、申請に基づかない処分を促す申出に関する手続規定は、行審法に関わる問題というよりは、行政手続法における事前手続に関わる問題であることを指摘し、行政手続法の改正により救済制度を設けるべきであるとしている。
 通則法は、課税標準等又は税額等の計算が、国税に関する規定に従っていなかったとき等、税額が過大となったときなどには、一定の条件の下に、更正の請求ができることとしているが(通則法第23条)、この更正の請求ができる期限は、例外を除き、国税の法定申告期限から1年以内に限られ、その期限を徒過すると更正処分を待たない限り(同法第24条)、課税標準等又は税額等の誤りを正すことができない。しかし、現行法では、更正処分をするか否かは税務署長の裁量に委ねられており、これを救済する手だてが通則法には設けられていない。
 そこで、このような場合における納税者の救済を図るため、報告書の趣旨に従って、行政手続法及び通則法を改正し、処分庁に対する申出制度を創設すべきである。

おわりに
 報告書が「現行行審法が定める手続に対して個別法で認めていた特例については、一般法である改正行審法で定める手続の水準が上がることにより、一般法の見直しの趣旨を踏まえ、改正行審法の規定を適用することとするか、あるいは個別法において改正行審法と同等又はそれ以上の水準の内容とする旨の改正作業が必要になる。(報告書P.53)」と述べているとおり、通則法の不服審査に関する規定の改正は、喫緊の課題である。
 すなわち、通則法の改正は、今般の行審法改正の整備関連として対応するだけではなく、納税者の権利救済に資する信頼される国税不服審査制度の構築に向けて、さらなる改革を行う観点から検討されなければならない。
 これらの改正により、今後、国税不服審査制度が国民の権利利益により重点を置いたものとなることから、この点を明らかにするため、通則法第1条(目的)に、行審法、行政手続法と同様に、「国民の権利利益の保護及び救済を図る」との明文規定を加えるべきである。
 この他、次の点についても検討すべきである。
@現行の「不服申立て前置主義(通則法第115条)」を改正し、納税者の選択により、審査請求手続を経ないで直接訴訟を提起できる制度を創設すること。
A通則法第74条の2の行政手続法適用除外規定を廃止すること。
以上

本稿のPDFファイル