租税訴訟学会横浜支部主催
「韓国の納税者権利救済制度」の視察報告書(概要と全文の掲載)

(2010年7月HP掲載)

 2010年3月21日から24日にかけて「韓国の納税者権利救済制度」の視察研修に行ってきました。税理士・弁護士の実務家を中心とする租税訴訟学会(横浜支部)主催の視察団で14名が参加しております。
 事務局長として、視察の企画・コーディネートを担当しましたが、参加者にとって「百聞は一見に如かず」の有意義なものでありました。
 視察報告書は、末尾にPDFで掲載しておりますので多くの方に参考にしていただければ幸いです。

 訪問先と研修の概要

1.韓国国税庁(納税者保護課・法務課)
 ・「納税者保護担当官」制度
 この制度は、全国の税務署に配置され、違法・不当な税務調査等に対する苦情を受付け処理する権限や「納税者権利憲章」の遵守を審査する権限を持ち、課税処分前に納税者の権利を救済するものである。
 ・「納税者保護官」制度
 全国の納税者保護担当官を指揮監督する納税者保護官が、国税庁に新設され、民間から採用されている。
 ・納税者保護委員会
 納税者保護担当官の権限行使を独立・公正な立場からサポートするために過半数が外部委員により構成された国税行政をけん制する組織。

 ・課税処分に対する不服申立制度
 韓国には課税処分前適否審査制度がある。また課税処分後の任意手続きとして、原処分庁に対する異議申請制度、行政審判制度として、国税庁に対する審査請求・租税審判院に対する審判請求・監査院に対する審査請求制度がある。
 なお、法務課の仕事には、適正な課税行政により不服申立てを減らす「課税品質向上システム」が存している。
 ・二つの課の担当者の説明の後、質問に対し懇切な応答がなされたことに視察団も感謝。

2.ソウル行政法院(行政裁判所)
 ・韓国には日本とは異なり、1993年から設置された行政訴訟事件に対する第一審裁判を専担する行政裁判所(一般裁判所)がある。ソウル特別市を管轄区域とし、他の地域では普通裁判所が行政訴訟を担当する。審理対象が専門化されているだけで、裁判官の身分、裁判所の構成などは地方裁判所と同じである。
 ・韓国でも日本と同じく税務訴訟の前に行政審判を経る(不服申立て前置)制度が採られており、行政裁判所の審理件数13%近くが税務訴訟である。
 ・法廷を見学したが、裁判官の席と当事者の席が同じ目線になるように段差が10pくらいしかないこと、また、裁判官の正面に当事者の席が隣り合わせに位置し、正面右側に証人席があるなど日本とは異なっていた。
 ・ハプニングであったが、大法廷の裁判官が視察団の質問に丁寧に応対してくれたこと、そして法廷の写真を快く許諾してくれたことに視察団一同感銘を覚えた。

3.租税審判院
 ・韓国は、2008年から国税と地方税に対する不服申立てを一元化する「租税審判院」を国務総理のもとに設置した。日本とは全く異なり国税庁や地方自治体から独立した機関である。
 ・院長以外に6人の常任審判官と24名の非常任審判官が存している。
 ・内国税5審判部のほか関税と地方税の審判部を合わせ7審判部で構成され、主審(1名)と陪審(2名)による合議制。
 ・審判官の除斥・回避・忌避制度、不告不理・不利益変更禁止の原則、納税者の意見陳述権など準司法的運営がなされる。
 ・請求の認容率は、日本と比べ高く、国税で30%近く、地方税で12%近い。
 ・納税者の評価は、権利救済を効率的・透明に運営し、独立した審理機関として期待が高くなっている。
 ・現在、「租税審判所法」への法律改正が求められている。
 ・組織変更により、国税庁とは一線を画しており、人事(交流)など懸案事項もある。
 ・説明に当たった行政室長が日本に5年生活したこともあり、質問の通訳は要らず、回答のみ通訳を通すという効率的質疑応答に驚くことと、懇切な応対に視察団一同感謝。

4.憲法裁判所
 ・日本とは異なり、韓国では1988年に憲法裁判所が設置され、@裁判所の提請による違憲法律審判、A弾劾審判、B政党の解散審判、C国家機関相互又は国家機関と自治体又は自治体相互の権限争議審判、D憲法訴願に関する審判の5つの事項について専担している。
 ・憲法裁判所は9人の裁判官で構成され、うち3人は国会が選出する者、3人は最高裁判所が指名する者が任命される。
 ・税法が憲法裁判所で審理される場合は、裁判所が課税処分の違憲性について提請する場合とこの提請申請を裁判所が拒否した場合に納税者が直接憲法裁判所に申請する場合である。
 ・最高裁判所(大法院)の税法解釈に対しては、憲法訴願が許されないので憲法裁判所では原則違憲審査を行うことはできない。
 ・憲法裁判所は、民主主義を支える役割を持ち、政治的司法機関ともいわれている。
 ・アメリカ型の司法審査制が司法権の仮想的優位を前提にした制度であるという反省から憲法裁判所が設置されたが、憲法守護機関として国民からの信頼が高い公共機関である。
 ・説明の前に、ビデオ(日本語字幕)による憲法裁判所の紹介があり、その後担当者の説明、さらに質問に対して懇切な応答がなされ、開かれた裁判所の雰囲気に圧倒された次第。

租税訴訟学会横浜支部主催(2010年3月)
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